この本は心理学者V・E・フランクルによって書かれた本です。
著者がナチスに強制収容所に入れられた時の経験を、自ら心理学的に分析しています。
経験の重さから辛く苦しいイメージがありますが、「読み終わった後は明るくなれる」と言っていた人がいたので読むことにしました。
『夜と霧』
著者:ヴィクトル・エミール・フランクル、訳者:霜山徳爾、 発行所:みすず書房 2021年9月1日
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人生が私たちに問うている
この本で有名な箇所はここでしょう。
人生から何をわれわれはまだ期待できるかが問題なのではなくて、むしろ人生が何をわれわれから期待しているかが問題なのである。
『夜と霧』V・E・フランクル/霜山徳爾 みすず書房 p183
人生は常に私たちに問いを出してきます。
私たちは使命を果たしたり、日々の務めに責任を負ったり、行為によって問いに答えていかなければならないのです。
どんなに苦しい時期も、悲しい出来事も、人生からの課題。
「この辛さに何の意味があるのか」と問うのではなく、私たちが答えるのです。
誰も代わることができない課題を苦しみ抜くことこそが、人生からの問いに答えることになる…
強制収容所を経験した著者の言葉は重みが違います。
この考えがあると、今までに起こった出来事の見え方が変わってきます。
そして、これから起こる出来事も、大切なのは自分がそれに対してどう行動するかです。
愛についての真理
私が泣きそうになったのは、著者が、同じ収容所にはいない妻のことを思い出す場面。
著者は辛い環境の中、まるで妻がそこにいるかのように妻と語り、彼女の微笑みを見て、彼女の眼差しに照らされるように感じます。
たとえもはやこの地上に何も残っていなくても、人間は――瞬間でもあれ――愛する人間の像に心の底深く身を捧げることによって浄福になり得るのだということが私には判ったのである。
『夜と霧』V・E・フランクル/霜山徳爾 みすず書房 p123
愛だけでなく、未来で果たすべき仕事のことを思ったり、ユーモアで心を維持したり。
こうした精神の自由と内的な豊かさへと逃げることができた人間が、収容所での生活を耐え得たのだそうです。
「価値は生命に従って付いている」
椎名林檎の「ありあまる富」という曲を思い出します。
持っていた物を誰かに奪われても、何もかも失ってしまったとしても、心の中のものはなくなりません。
大切な人も、知識や機知も、過去の経験も。
それこそが生き抜くための拠り所になります。
読む前に聞いていたとおり、予想と反して「今を生きよう」と前向きになる本でした。
人生には何もかも失ったように感じたことは誰にでもあるだろうし、これからもあるかもしれません。
そんな時にこそ読みたい本です。