最近本屋で見つけた『四畳半タイムマシンブルース』。
えっ、新作?新作じゃない?!
四畳半神話体系の裏話的なやつ?原作者がいるけど何?!
とりあえず大好きな森見登美彦さんの作品なので買ってみました。
『四畳半タイムマシンブルース』
著者:森見 登美彦、 原案:上田 誠、 発行所:KADOKAWA、 2022年6月25日
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使い回しすぎじゃない?!
「太陽の塔」「夜は短し歩けよ乙女」「四畳半神話体系」…
森見登美彦氏のこれらの作品を、私は大学時代に読みました。壮大かつ不毛な毎日の物語に、シンパシーだらけで大好きになりました。
今回の『四畳半タイムマシンブルース』を読んでいくと、登場人物は「四畳半神話体系」と一緒だし、相変わらず後輩明石さんは可愛いし、悪友の小津は腹黒いし、全く同じ文章は出てくるし、
「さすがに同じ設定使いすぎじゃない!?」と思いました。
最初は。
60ページを過ぎたあたりからグッと面白くなり、読み終えてみると、「四畳半神話体系」とは全く違う新作でした。
それもそのはず。
この小説の原案は「夜は短し歩けよ乙女」などのアニメ・舞台脚本他を手がけた上田誠さん。上田さんが所属するヨーロッパ企画という劇団の代表作「サマータイムマシン・ブルース」を下敷きに、森見氏が四畳半の仲間を暴れさせた作品なのだそうです。
タイムマシンどんだけ使うの!
ファンタジーは魔法が出てきたり、SFっぽかったり、現実にはありえない出来事が起こります。
でも、絶対に「なんでもあり」ではないのです。
題名にあるタイムマシンを見つけた主人公達は、最初は面白半分で使ってみます。
そのうち「他人の不幸で飯が三杯喰える」小津や「アパートのヌシ」樋口師匠、破天荒すぎる歯科衛生士の羽貫さんたちがなんでもありで好き勝手動き始めるからもう大変…!!
「過去の改変で宇宙が破滅する可能性」に気付いた主人公と明石さんが必死に追いかけますが、登場人物は全員勝手気まま。
どんだけ使うんだ!ってくらいタイムマシン乗りまくります。
タイムマシンが出てくるお話でも、こんなに乗り回すのってあんまりないんじゃないんでしょうか?
しかも、使ってるわりに、そのほとんどが「昨日」と「今日」の往復。
もう人口密度が濃すぎて、わちゃわちゃするのが目に見えますよね(笑)
今日のあの人と昨日のこの人が入り乱れ、普通は目立ってはいけないはずの過去でも自由自在に動き回り、昨日の人たちと話までしちゃう。
そもそも、そんなに何度もタイムマシンを使うための用件もわりとしょうむないんです。
愛すべきしょうむなさ
そう、このしょうむなさがイイのです。
言葉だけで存在しているというか、表現が複雑でややこしいのに中身は薄いというか無益きわまりないというか(失礼)。
悪口じゃないんです。これこそが森見登美彦氏の小説の好きなところなんです。
たとえば、作中に登場する「京福電鉄研究会」。この部の活動は、(妄想で)かつて京都と福井を結んでいたという(本当は存在しない)鯖街道線の廃線跡から遺跡を見つけること。
なんて夢のある活動でしょう。
そして、なんて意味がないんでしょう。
その後、主人公と小津の関係を明らかにするためだけにまるまる6ページにわたって語られる、「京福電鉄研究会」の内紛。
これをテンポよく読ませ、クスッとさせるのが森見登美彦氏の手腕です。
明石さんも言っているではありませんか。
「ポンコツでいいんです。それがいいんです」
『四畳半タイムマシンブルース』森見 登美彦/上田 誠、 KADOKAWA p.32
森見節堪能しました。
こちらのエッセイで、森見さん自身が廃駅を探す旅に出ていました。実際の体験に基づくネタも多いのかな?
大好きな作家さんの頭の中を覗いてみたいー『太陽と乙女』