気持ちいいほど言ってること違う女『悪女について』

たまたまYouTubeでレビューを見つけ、「面白そう!題名も強烈!」と思って読んだ『悪女について』。

さまざまな顔を使い分けつつ戦後日本を成り上がる女性のしたたかさを描いた、何年経っても古びない名作でした。

「悪女について」簡単なあらすじ

土地を転がしたり、レストランや宝石店などいくつも会社を経営したりして成り上がった富小路公子という女性。

突然謎の死をとげた彼女について、27人が次々に証言していきます。

本人は亡くなった後なので一切登場しません。

彼女について小説を書こうとしているインタビュアーも登場しません。

周りの人から見た彼女についてのエピソードが淡々と続いています。

面白いのは、それぞれの証言の内容が「別人と思うほど違っていること!

誰よりも美しいものを愛する聖女でありつつ、同時にある人にとっては人生を狂わされた憎らしい存在。

この「悪女」、出生も年齢も名前も偽っていることが読んでいるうちに明らかになってきます。

一体、富小路公子とはどんな女性だったのでしょうか?

「悪女について」人物相関図

ここから先はネタバレを含むのでご注意ください!

「悪女について」には目次や人物相関図などはついていないので、簡単にまとめてみた図がこちらです。

悪女について 人物相関図

名前の前についている数字は登場する順番です。

この順番も秀逸で、読み進めるとびっくりするような出来事が次々明らかになっていきます。

謎解きではない

読み始めたときは謎の死や来歴について推理していくミステリかと思いました。一番のテーマは推理ではないようで、結局最後まで読んでも謎はいまいちスッキリしませんでした。

でも、それぞれの証言の食い違いが面白くてずるずる読んでしまいました。

次の証言者の話を聞くと、自分の公子の印象も180度変わることもありました。

自分は相手を知っていると思っていても、自分が見ているのはごく一面。

接する相手によって態度や印象が違うのはわりとあることなのかもしれません。

それにしてもここまでなのはすごい。

身近な人が信者のように公子のことを好きになり、宝石を騙し取られても報道が出るまで全く気付かない。愛人の母や妻とまで仲良くなってしまい、複数の男性が「公子の子どもは自分の子に間違いない」と信じて疑わない。

公子がここまで人の気持ちを支配できてしまうのがある意味痛快でした。

公子は「美人ではない」と評されることが多いですが、ほとんどの場合第一印象がいいです。

人の意表をつくタイミングでポロポロ泣いたり、相手によって独特の話し方をしたりします。

それが全部計算でやっていることなのか?

そうだとしたら、どれだけ頭が良いのか!最終的には何を目指していたのか?

死の真相よりもこういった謎の方が印象的でした。

今読んでも古くない

「悪女について」は1978年に『週刊朝日』で連載されました。今より50年近くも前です。

周りの人の話からある人物の生き様が浮かび上がってくるこの作風は、今でも全く古く感じませんでした(時代を感じる描写はあります)。

最近でもこうした手法で書かれた小説はいくつかあるようですが、当時としてはかなり新しかったのではないでしょうか。

これが週刊誌の連載だったら、次が気になって読んじゃうな…!

証言者はけっこう公子と関係ない話もしているのですが、そこがそれぞれの個性、人間くささを浮き立たせています。

モデルはいるのか?

「富小路公子」にモデルはいるのか?と気になって調べてみましたが、はっきりとモデルとなる人物や事件はないようです。

実際、彼女は悪女だったのでしょうか。

人々の心を手玉に取り自らの信念に生きた公子を、イチから作り上げて書き切った有吉佐和子さんの腕が圧巻でした。

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