映画化・マンガ化もされて有名な『ブレイブ・ストーリー』。原作は宮部みゆきさんです。
今まで宮部みゆきさんといえば推理小説のイメージしかありませんでした。
『ブレイブ・ストーリー』は推理小説家らしい計算されて筋の通った世界観が魅力です。
20年前の作品ですが今読んでも色あせない、大人にとっても読み応えのあるファンタジーでした。
『ブレイブ・ストーリー』簡単なあらすじ
亘は小学5年生の男の子。
学校で「近くの廃ビルに幽霊が出る」との噂はありますが、いたって平凡な毎日を過ごしています。
しかし、父親からの突然の告白をきっかけに楽しい日常が一気に変わってしまいます。
亘は「幻界(ヴィジョン)に行って女神に会えば、運命を変えてもらえる」と聞き旅に出ます。
幻界の入り口はあの廃ビル。
トカゲ男(水人)のキ・キーマやネコのような姿(ネ族)のミーナ、幻界の自警団のような組織ハイランダーのカッツ…
出会った人々とともに、ワタルは幻界を旅していきます。
未来を変えるには…
僕が変わらなかったら、どれほど運命だけをいじっても、悲しみも憎しみも失くならない。
『ブレイブ・ストーリー(下)』宮部みゆき著、 角川書店、p184
ワタルが旅する幻界は、現実の世界に住む人の創造力が創り出している場所です。
だからなのか、ゲーム好きな彼の幻界は勇者がいて、魔導士がいて…とRPG風です。
様々な体験をしながら旅するうちに、幻界の惨状を知り心を痛めるワタル。
けれど、その惨状もすべては幻界を作り出しているワタルの一部なのです。
運命の女神が叶えてくれる願いはたった1つだけ。
ワタルは女神に何を願うのか、そもそもそこまで行き着けるのか…最後まで目が離せません。
ファンタジーだけど子ども向けじゃない
この本はファンタジーではありますが、ずっしり骨太で読み応えがありました。主人公は子どもだけど、大人向けの本だと感じます。
生々しい現実
現世でのワタルの境遇がツラすぎます。幻界に旅立ちたくなるのも分かる;;
私も子どものころ、親友が両親の離婚のため転校してしまったときに「この世には自分の力ではどうにもならないことがある」と痛感しました。
今でも覚えているということは、当時は相当ショックだったのでしょう。
過去には「これ以上悲しいことはない」「当たり前に朝がくるなんて」と感じた出来事もあります。
だから現世でのワタルの気持ちも分かりますが、どんなにツラくても人生が終わったわけではありません。
今ではその出来事のおかげで手に入ったものすらあると分かりますが、それは時が経ってから振り返っているからこそ感じることだと思います。
子どもの時には冷静に読めなかったかもしれません。
重いテーマ
幻界には動物みたいな部族やドラゴンがいたり、魔法が使えたりと、ザ・ファンタジーな世界です。
でも、宗教、差別、妬み、憎しみ…など重いテーマがいくつも絡んでいます。
下巻は読んでいるのがツラくなったほどでした。
普段あえて意識しないようにしている自分の中の暗い部分にも焦点が当てられます。
ラストはワタルの決意にハッとさせられます。
主人公が子どもだというだけで、まさに大人のためのファンタジー。
こんなファンタジーも書けちゃうなんて、宮部みゆきさんは天才だなあ…。
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