知ることから、考えることは始まるー上橋菜穂子『獣の奏者』

事実を知らせずにおくということは、判断をさせぬということでもある。

『獣の奏者Ⅱ王獣編』上橋菜穂子著、講談社、p94

『獣の奏者』はファンタジーではありますが、とてもテーマが深く、考えさせられました。

動物が好きな方、ファンタジー好きはもちろん、ファンタジーが苦手な方にも読みやすいドキュメンタリーのような本です!

簡単なあらすじ

物語のあらすじをネタバレしない程度に簡単にまとめます!

獣の奏者は全4巻と外伝があります。


この物語の舞台は、架空の国リョザ神王国。この国には神の血を引くとされる「真王(ヨジェ)」と戦を司る「大公(アルハン)」がいます。

真王を象徴するのは「王獣(おうじゅう)」という空とぶ獣。大公は「闘蛇(とうだ)」という蛇に似た巨大な獣を戦に使います。

主人公エリンは目の前の獣に真摯に向き合うことで、隠された真実をひとつずつ明らかにしていきます。それは次第に国の行く末に関わることに…。

Ⅰ巻:闘蛇編

獣医であるエリンの母が、大公の闘蛇を死なせた罪で処刑が決まるという衝撃的な場面から物語が始まります。

エリンは母を助けようとしますが絶体絶命の危機。

母は死の直前に禁を犯し、指笛で闘蛇を操って娘を救います。

母の死後、蜜蜂飼いと生活していたエリンは偶然目撃した野生の王獣に惹かれ、獣の医術師を志すことに。

エリンが怪我をした王獣の世話をし、独自のやり方で獣の生態を解き明かしていく課程がワクワクします。

Ⅱ巻:王獣編

王獣の子を救いたい一心で、王獣と意思疎通する方法を見つけてしまったエリン。人に飼われる王獣としては初の出産も成し遂げます。

ただしそれらは、母がそのために命を落とした「破ってはならない掟」でした。

エリンの為したことは国を左右する力となり、エリンと王獣たちは次第に国のイザコザに巻き込まれていきます。

軍隊を蹴散らしてしまえるほど絶対的な力を持つ王獣。美しいけど、恐ろしいです。もちろん悪用しようとする人もいます。

Ⅲ巻:探求編

Ⅱ巻から11年の時が経ち、闘蛇が一斉に死ぬ事件が再び起こります。

エリンはその原因を探っていくうちに、現代には伝わっていない史実があることを知ります。

獣を育てる掟には、一体どんな意味が隠されているのか?かつてこの国にはどんな惨劇が起こったのか??

エリンは真実を知って、母とは違う道を進むことを決意します。

Ⅰ巻の始まり方にしては物語の進行スピードが落ちたように感じます。

国の成り立ちや政治の話とかが入ってきてちょっと小難しいですが、ぜひ挫折しないでⅣ巻の結末を見てほしい…

Ⅳ巻:完結編

自らの家族の未来ため、王獣を戦のために使うことは決してしないと誓っていたエリンが訓練をはじめます。王獣の繁殖の謎もついに明らかに。

隣国と戦が起こるそのとき、闘蛇軍と王獣軍が衝突すると一体どんなことが起こるのか…

エリンは真実を見極めるため突き進みます。

ラストは壮大で、読み終わった後しばらく放心しました。

これしか道は無かったのか…。

『獣の奏者』はもともとⅠ闘蛇編 とⅡ王獣編 で完結する予定だったのだそうです。しかし、Ⅱ巻を読んだ読者からの熱烈なラブコールでその先を書く決意をされたのだとか。

Ⅲ巻のスピード減はそのためか?Ⅳ巻まで読むと、書いてくれて良かったと思います。

外伝:刹那

Ⅱ巻~Ⅲ巻の間にある、語られなかった11年の出来事の短編集です。

重責を負うエリンの、女性として母としての一面が垣間見えます。

獣と人間のいい関係とは?

この本を読んで、獣と人間の関係を考えさせられました。

エリンは笛で獣を硬直させ、命令を聞かせるやり方に強く反発します。

王獣に近づきすぎれば命が危険と幾度も警告されながらも志をつらぬき、獣や人の在り方そのものを見極めようとするエリンの探究心と集中力はすごいです。

人に飼われる闘蛇や王獣は、人間が与える薬草入りの水で大きく強靱な体に育ちます。一方、野にある獣とは違い弱くなったりできなくなってしまうことも…。

エリンは生き物の生をゆがめるのはおかしいと、その飼育方法に立ち向かっていきます。

現実にも人間の利益のために飼われている動物はたくさんいます。

家畜や動物園の動物、広い意味で言えばペットもそうなのかもしれません。

飼われていれば食べ物や安全なねぐらは手に入るものの、動物には動物の生があるはず。決して人間の勝手で扱ってはいけないですね。

ただ、エリンにだけは心を開いたかに見える王獣でも、人間同士のように考えていることまで分かり合えるわけではありません。

エリンに対して、とっさに牙を剥くこともあります。

最悪の事態を避けるためには、ある程度の縛りは必要なのか…。その加減は難しいところです。

知ることを諦めない姿勢

獣の育て方にいくつも掟があるのは、過去の惨劇を繰り返さないためでした。エリンの母が亡くなったのも、その掟を守り真実を明るみに出さないため。

ただ、どんな惨劇が起こったのか、何が原因で掟は何を封じているのかを知らないまま、絶対に犯してはいけない掟だけが残っていました。

エリンは、掟に触れないようにするのではなく、1つ1つ謎を解き明かしていきます。

Ⅳ巻で心に残ったところがあります。

人は、自分たちがなにをしていて、それがどんな結果を招くのか知るべきだと思う。どんな知識も、隠されるべきではないと思う。

人という生き物が愚かで…どうしようもなく愚かで、知識を得たときに、それを誤った道に使ってしまうとしても…それでも(中略)

人は、知れば、考える。多くの人がいて、それぞれが、それぞれの思いで考えつづける。一人が死んでも、別の人が、新たな道を探していく。

『獣の奏者Ⅳ完結編』上橋菜穂子著、講談社、p293-294

戦争などの大きな時代の流れは、1人の動きだけでは変わらないかもしれません。エリンも行き着くところまで流されていきます。

ただ、過去に何が起こったのかを正しく知り、その先に考えることはできます。

現代は情報社会ですが、誰かの利益のために知識が隠されたり誤った情報が煽られたりしているときに判断するのは難しいです。

そうした情報で多くの人が動いてしまうのは本当に怖いと、コロナが流行りはじめたときに思いました。

第二次世界大戦前は英語を学ぶことも禁じられていたように、皆が「よし」としていることだけが真実ではないかもしれません。

知らないことは疑問を持たないかぎり検索できないし。

現代に、そして娘の生きる世界にⅣ巻の完結編のような惨劇が起こってしまわないよう、何が正しいのか1人1人が考えていく必要性を感じました。

読後放心状態必至

上橋菜穂子さんの本は、架空の国の生活が緻密に書かれているのが好きです。

人名や地名、食べ物の名前などは、どこの国の言葉とも響きが似ていません。(それが覚えづらくて苦手という方もいるかもしれませんが^^;)

出てくる食べ物はどれも美味しそうで、それぞれの地域ごとの生活や文化の違いが ありありと感じられます。

学者肌のエリンの探求も描写が緻密です。

そんな描き方なので、物語に入り込むことができファンタジーが苦手な方にもオススメです!

深いテーマがあり、是非大人に読んでもらいたい物語です。

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