何気ない生活が奇跡に感じるー『オイアウエ漂流記』の読書感想

大好きな荻原浩さんの小説「オイアウエ漂流記」。

続きが気になり一気に読みたくなるほど面白かったです!!

あらすじ

出張中の主人公賢司が乗った旅客機が南太平洋で嵐に遭い海に墜落してしまいます。

島に流れ着いたのは賢司の会社のメンバーと新婚カップル、旅行中のおじいちゃんと孫、謎の外国人の計10人とセントバーナード1匹。

最初は「すぐに救助が来るだろう」と思っていた彼らでしたが、その小さな島はどうやら無人島。
飲み水や食べ物をどうやって手に入れるか?マッチもライターも無い中どうやって火を起こすのか?…次々生じる問題に、荻原浩さんが描く非常に個性豊かなメンバーが力を合わせたり大喧嘩したりしながら立ち向かっていきます。

彼らは無事に生き残ることができるのか…?!

文明のありがたみを痛感

この小説を読んで一番痛感したのは、文明のありがたみです。

島にはスーパーやコンビニがないのはもちろん、簡単に火がつくコンロも水が出る水道も(トイレもシャワーも)ありません。

小学生の時に毎年行っていた「子ども原始村」主催のキャンプを思い出しました。
引率の大人たちは別のテントにいて、子どもたちだけで4日間飯盒炊さんをしてご飯を食べ、虫がたくさんいるテントで眠るキャンプでした。(今思えばよく親も行かせたなという感じですが、とても楽しかったことを覚えています。)

ライターやチャッカマンも持って行かない決まりだったようで、料理自体よりも薪集めと火起こしのほうがよっぽど大変でした。自宅に帰ってくると、スイッチ一つで火がつくことに感動しました。

あのキャンプでさえ、火起こし用の道具はあったし野菜やお米は事前に頼んだ分だけ用意されていたし、蛇口をひねれば水が出る水道がありました。
それに対して主人公たちはそれぞれの知恵と体力と持ちものを結集させて「何もない島」で生きていきます。

普通に生きていればこんな状況に陥ることはないかもしれません。今はマッチで火をつけることすら少ないかもしれません。家電が家事をしてくれ、声だけで操作もできる時代です。

それが当たり前のことになってしまいそうですが、文明のありがたみを忘れないでいたいと感じました。

「食」について考える

印象的だったのが、登場人物たちが島の生き物を殺して食べる場面です。

非常用食料はあっという間に尽きてしまい、最初は果物を採ったり魚を釣ったりしていますが、徐々にコウモリ、水鳥など、生き物を捕まえるようになっていきます。

生きていくために命をいただく

普段スーパーに行くとお肉もお魚もすぐ調理できる状態になって売られています。もともと生きていたもの命をいただいているということは、頭では分かっているつもりです。

しかし、生きている動物を自分で殺して食べろと言われたら…できないと思います。

主人公がウミガメと出会う場面があります。甲羅だけでも1.5メートルはある特大ウミガメで、一匹仕留めれば10人が当面食べていける量です。
でも妙に人間じみた顔を前にして殺すのをためらいます。

そりゃそうだ!!

こうした生々しい場面は見ていないけれど、自分だって日々命をいただいています。
『感謝の謝は、謝罪の謝だ』(p629)という言葉が出てきます。忘れてはいけないし子どもたちにも伝えていきたいことだと感じました。

小学生の間夏休みはよく祖母の家に預けられて、畑で野菜を採って食べていました。
動物はもちろんのこと、野菜だってもともとは土に生えて生きているんです。

感謝して残さずいただきたいと改めて思います。

無意識に食文化の影響を受けている

また「何は食べてよくて、何は食べられないか」という文化の影響は強いなと感じました。

日本人は一般的に刺身を食べますが、その文化が無い人にとっては受け入れがたいかもしれません。私は牛や豚・鶏を食べるけれど犬や猫・猿と「生き物」という点では同じです。

この本の中にウミガメを保護する思想を持つ登場人物がいます。その方にとってはウミガメを食べるなんて…信じられないことでしょう。
それでも食べなければ自分達が死んでしまう。

長野県にはイナゴを食べる文化があります。そうです。あのイナゴです。

小学校時代に「文化を学ぶ」と自分たちで捕まえてきて地域の方が料理してくれて食べたことがあります。調理してしまえばカリカリしていて食べられないことはありません。でもやっぱり虫です。

長野県民がイナゴを食べるのは、海がない中でタンパク質不足を補うための文化であり、知恵なんです。

食文化はその国の先人たちがその環境で食べられるものを探して、時には見つけられず亡くなっていったり毒に当たったりしながら編み出されていったものでしょう。宗教の影響もあるかもしれません。

食文化が違うからといって、それだけで軽蔑せず受け入れられる人になりたいです。

日常での感謝を忘れずに

この本を読んで、改めて生きているものを食べて毎日生きられているんだなと感じました。どんどん便利になっている生活と、毎日の食べ物があることが心から有り難いと思いました!

ユーモラスでめんどくさいキャラの登場人物たち(笑)が困難に立ち向かう生き生きとした描写がステキだし、次々と展開する場面にハラハラし、ページを閉じることができなくなります!

その合間にグサッと深く考えさせられる言葉が出てきます。

是非読んでいただきたい一冊です!!

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