可愛らしい装丁を見て思わず手に取ったら、読んだ後にしみじみとした気持ちになる繊細な小説でした。
著者は芥川賞作家でもあり、海外にも多くの作品が翻訳されている小川洋子さんです。
読みたい所をタップ
小鳥を愛するふたり
主人公は、ボランティアで幼稚園の鳥小屋を黙々と掃除する「小鳥の小父さん」。
小父さんが亡くなったところからお話が始まり、なぜ鳥小屋を掃除するようになったのか、どんな人生を送ってきたのか少しずつ語られていきます。
小父さんのお兄さんは独自の言葉(ポーポー語)を話し、小父さんはその言葉が分かる唯一の人。
小鳥を愛するお兄さんと2人、決められたルーティンを大事に守って生活していました。
お兄さんに先立たれ、積極的に人と関わらず淡々と生きる小父さん。
作中に大きな事件が起きるわけではなく、丁寧に生活を描きながら時が流れていきます。
報われない好意と喪失
人とはあまり関わらない静かな生活の中でも、小父さんが誰かに心惹かれることもあります。
そんな時は幼稚園の子どもや先生にも朗らかに対応していて、世界に対して心が開かれているようです。
でも長い年月をかけて大事に大事にしてきたものも、失われるときはあっという間です。
通い詰めた図書館の分館、仕事、そして鳥小屋…。
小父さんが悲しむ描写は無く、淡々とした語り口なのに切なくて涙が出ました。
どんなに毎日の掟を守って同じ生活をしたくても、世界はどんどん変わっていく…。
いいことがあっても、人生全体から見ればそれは一瞬のこと。儚いです。
繊細で静かな描写
この小説は言葉がとても繊細でした。
小鳥の表現、さえずりの描写、小父さんのルーティンを無造作に崩しに来る一見乱暴な子どもたちも、とても繊細に描かれています。
ガラス細工のように薄くて、力を入れれば割れちゃいそう。
繊細すぎて内側が透けて見え、逆にちょっとグロテスクなくらい。
か細い小鳥の体でも、くちばしだけは固くて獰猛さを感じます。繊細に見えて、実はしたたかに生きているのです。
そんな中で小鳥の声に、そして世界にじっと耳をすましている小父さん。
周りの人たちが小父さんに厳しいし冷たいと思ったけど、私も実際にこんな小父さんがいたら深く関わらないようにするかも知れません。
でも、小川洋子さんの美しい描写だからこそ小父さんにもお兄さんにも好意が持てます。
綺麗な映画を見た後のような読後感でした。