三浦しをんさんのことが、大好きになった作品がある。
流れる四季と日常のドタバタを、軽快な語り口でコミカルに描いているようで、決してコミカルだけじゃない。人とのつながりを考えさせられ、ジーンとする一冊。
『あの家に暮らす四人の女』
著者:三浦しをん、 発行所:中央公論新社、 2018年6月25日
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ゆるい共同生活
主人公の佐知が「私たち細雪の登場人物と同じ名前だよ」と言っているが、あの家に暮らす女四人は家族ではない。
主人公佐知とその母鶴代、家が水浸しになるという災難で転がり込んだ雪乃、ストーカーに追われぎみで避難してきた多恵美の四人だ。それと、敷地内に住んでいる、守衛でも使用人でもない謎の存在「山田」。
父は不在である。
同居する四人は個性が強い。この家にはいくつも事件・珍事件が起こるが、その反応にも個性が出ておもしろい。
鶴代は家持ちのお嬢様気質。事なかれ主義で、何が起きても「誰かがなんとかしてくれる」と思っている節がある。
刺繍作家の佐知はそんな鶴代にパシられケンカもするが、周りから見ると親子はとても仲良く見える。
雪乃は外見はシュッとしていて無駄がないが、自室や部屋着はフリフリで乙女チックファンシー。
多恵美は夢を追う男性が好きで、なぜかダメンズばかりが寄ってきてしまう。
こんな共同生活は、なんだか部活みたいで楽しそう。
同居を通して「家族」の思い込みが外れる
雪乃は社会に出てからずっと一人暮らしをしてきた。「経済面でも生活面でも自立していることが大人の証」だと思ってきたが、最近は他人と折り合って共に生きていけることこそが大人なのではと思い始めている。
多恵美は相手がヒモ男&DV男化しても、ストーカーになってさえも、つい甘い顔をしてしまう。でも、佐知や雪乃に被害が及ばぬようにと、心を鬼にして彼を拒絶する。
2人とも、共同生活で考えが変わっている。
佐知と雪乃は多恵美の彼を見て、最初は「男女関係なく稼げる方が稼ぐ」つもりでも「男が働くもの」という考えがまだ世間や自分たち自身に残っていて、その焦りが暴力などの一因になるのでは?と推測する。
佐知は刺繍作家だが、実家暮らしなのもありお嬢様の趣味と捉えられる。どうしても世間から(というか付き合った男性から)「自立していない」と見られてしまう。家で毎日遅くまで仕事をしているのに。
「大人なら自分で稼いで自立するもの」、「男が稼いで一家を守るもの」、「仕事とは外に出てするもの」
…これらは思い込みでしかないのかもしれないが、自分で思うよりも案外根深く残っている。
これからの時代、一緒に住む人は家族でなくてもいいのかも。「稼げる人が稼ぐ」スタイルなら、もっと家族の形は様々になり、家で仕事する人もさらに増えるだろう。
同居の条件は思い込みを外すことと、お互いを思い合うことだけ。意外とこれが一番できないことかもしれない。
急にファンタジー
四人が住む洋館には、四十年近く開けられていない「開かずの間」がある。雪乃がその部屋を掃除すると、まさか!!なものが発見される。その後の佐知・雪乃・多恵美の慌てっぷりがおもしろい。
そして鶴代は起こったことを一向に説明しないので、突然カラスが過去のことを語ってくれる。このあたりから急にファンタジー感が出てくる。
このファンタジー感には作者の意図がある。
読み進めると最後に、題名が『あの家に暮らす』と外から見ているように書かれていることに納得する。
自分も四人の生活を外から見ているようでありながら、一緒に温かい気持ちになれる。
急に涼しくなった秋の日に読みたい本。