帯を見て”恋愛”小説だと思い、
プロローグを読んでミステリーだと思い、
良い意味でどちらも裏切られた本です。
『傲慢と善良』簡単なあらすじ
輸入業の代理店を営む西澤架(かける)は、30代後半になり婚活アプリで坂庭真実(まみ)と出会います。
おとなしく真面目そうな真実と付き合うも、ずるずると結婚を先延ばしにしていました。
付き合って2年経つころ、真実がストーカー被害に遭います。それを機に結婚の意思を固めるものの、そこまで真に受けていなかった架。
そんなある日、突然真実は姿を消してしまいます。
真実は無事なのか?ストーカーに攫われてしまったのか??
真実を探そうとする架は、ストーカーの可能性がある相手をはじめ、真実の過去を何も知らないことに気付きます。
真実が生まれ育った群馬を訪ね、家族やお見合い相手と会い、ひとつずつ過去と向き合う中で判明したことはーー。
婚活をテーマに選び選ばれるということ、人の内面を深く描いた小説です。
見せたくない真実(しんじつ)
辻村深月さんの文章は、とても穏やかで丁寧です。
でも、他人に見せないような、
いや自分だっていつも見ないようにしている部分の心理描写が多く、グサグサ刺さってきます。
たとえばこの文章。
真実が行っていた結婚相談所の奥さん、小野里さんの言葉です。
婚活でうまくいかない時、自分を傷つけない理由を用意しておくのは大事なことなんですよ。自分が個性的で、中味がありすぎるから引かれてしまったとか、(中略)本来は自分の長所であるはずの部分を相手が理解しないせいだと考えると、自分が傷つかなくてすみますよね。
『傲慢と善良』辻村深月著、朝日新聞出版p91
コワーー!!
炎上するわ!
他にも、タイトルの『傲慢さと善良さ』が現代の結婚がうまくいかない理由だと言っています。
善良な人ほど、親の意見に従ったり他の誰かに決めてもらう場面が多く「自分がない」ように見える。
ただ、いざこの人と結婚する…となると「ピンとこない」と言って断る。
それは自分の価値観に重きを置きすぎている傲慢さがあるから…
うーーーーーん、直視するのツラい。
小野里さんだけでなく、架の女友達も、真実の姉も、みんな辛辣です。
よかれと思って真実にあれこれ口出ししてくる母親にも、「善良」を装う「傲慢」さを感じます。
それを黙って受け取っている真実(まみ)も真実だけど。
小説全体を通して見たくない真実(しんじつ)が突きつけられます。
それは本当に自分で選んで決めたことか
どの学校に進学するか、どんな就活や結婚をするか、またはしないか。
20~30代は、選択の連続です。
あなたはそれらを、全て自分で選んで決めてきたと言い切れますか?
「婚活がうまくいくかどうかの差は何か」という架の問いに対し、小野里さんは
「うまくいくのは、自分が欲しいものが分かっている人。自分の生活をどうしたいか、ビジョンがある人。」と即答しています。
私自身は結婚しないと豪語していたのに、いつの間にか結婚していました。明確なビジョンがあったかというと、ありません。
ただ不確定な要素も含めて選んだ自分と相手を信じ、結婚に踏み切るのにエネルギーが必要だったのは確かです。
結婚がマルで、結婚しないのがダメというのでは全くありません。
この本に出てくる真実は、結婚するともしないとも希望がないまま(どちらに向けても行動しないまま)30代に近くなり、親を始めとする周りが婚活したらと言うから婚活を始めます。
それは、本当に自分で決めた人生なのでしょうか。
希望しない、選ばないでいれば、上手くいかなかったときダメージは少ないかもしれないけど。
最初に出てきた「自分を傷つけない理由」に通じるような。
また、善良そうに見えて意識せず「傲慢」になっていることがないか気をつけないと…と自戒しました。
架の女友達みたいに誰かの勇気を壊しちゃうようなこと、酔ってても言わないような人になりたい。
真実の母親のように「あの娘は何もできないから」と自立する機会を奪い続けることのない人になりたい。
ただの恋愛小説ではない、考えさせられる小説でした。
架に、なんかいいことがありますように。
※ネタバレ注意!
冒頭の緊迫感からミステリーだと思って読み始めたら、第一部は心配になるほど場面展開しません。
ストーカーって言ってるのに大丈夫?!とヤキモキしました。
一瞬読むのやめようかと思いましたが、第二部で謎が解けました。
途中で止めてしまうともったいないので是非最後まで読んでみてほしいです。