2010年のデビュー作で太宰治賞、三島由紀夫賞を受賞した著者。
その後の作品もさまざまな章を受賞し、「むらさきのスカートの女」で芥川賞を受賞。純文学新人賞三冠なのだそうだ。
文学賞については詳しくないが、これはかなりすごいことではないだろうか。
今村夏子さんも2019年芥川賞を受賞した本作のことも知らなかったけど、読んでみたら心に残る小説だった。
『むらさきのスカートの女』
著者:今村夏子、 発行所:朝日新聞出版、 2022年06月30日
黄色いカーディガンの女は何者??
この小説は「むらさきのスカートの女」を見つめる「黄色いカーディガンの女」の視点で書かれていて、読んでいると先が気になりどんどん引き込まれる。
むらさきのスカートの女と友達になりたい黄色いカーディガンの女は、彼女が自分と同じ職場に就職できるように手を尽くす。
序盤から黄色いカーディガンの女の執着心や、ストーカーまがいの行動がちらほら出てくる。
むらさきのスカートの女の家はもちろん知っているし、彼女がいつ働いて、休みの時はどこで何をしているか逐一メモしている。
むらさきのスカートの女がどこに面接に行ったかも知っているし、晴れて同じ職場になった彼女がどのように職場に溶け込んでいくかも全て知っている。
それにしても、2人の職場のチーフたちはとても日本的だと思う。
1人がいい評価をすれば全員が優しい顔をし、ひとたび反感を買えば全員でのけ者にする。「気付かれなければOK」と小さいズルをする。
その中で、黄色いカーディガンの女は人目も憚らず、自身もちゃんと働いているのか危ういほどむらさきのスカートの女を「見て」いる。
黄色いカーディガンの女は、一体何者なんだろう?
最初から危うい行動の描写が多かった黄色いカーディガンの女だが、一番ゾクッとしたのは141ページ。
その前後から終盤にかけて、コワい行動を畳みかけている。
黄色いカーディガンの女は存在している?
黄色いカーディガンの女はむらさきのスカートの女への執着が激しいあまり、世の中の道理をふみたおしすぎている。
「気付かれなければOK」の範囲を超えている。
でも、作中でその行動をとがめられている描写が少ない。
加えて、黄色いカーディガンの女は職場で同僚からも無視されているようだ。周りは彼女がいないかのように振る舞っている。
まるで人の目に見えない妖精のよう。
そんな「見えない」女に自分から注意を向け、目を合わせるのはむらさきのスカートの女だけ。
いや、とがめられている描写が少ないのは、黄色いカーディガンの女の目に映っているのがむらさきのスカートの女だけだからか。
それ以外のことは、起こっても気にしていない、見えていないのかもしれない。
最後まで読んでも謎は残る
スッキリしない。
これは人間関係のイザコザとか、一人暮らしで定職が無い場合の経済的不安とか、現代の社会の闇とかを表現しているのだろうか…。
正直私には分からない。
分からないけどなんとなく心に残るので、名作なんだと思う。
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